【2019年 ママゴン8月号掲載】
元イルカの調教師
渥美半島の先端のビーチで命の大切さを伝えるママ
田原市在住 松野 弘美さん 36歳
夫、長女(6歳)、長男(4歳)の4人家族。
水族館のドルフィントレーナー、トレーナーを育成する専門学校の非常勤講師を経て、今年から渥美半島の海で生き物の大切さを伝える自然体験プログラムを実施。
一度は諦めた夢をチャレンジして実現
小さい頃、水族館のイルカショーを見たときに感動をして、ドルフィントレーナーになりたいと夢見ていました。高校を卒業する前、ドルフィントレーナーになるのか、おばあちゃん子だったので介護福祉士の道へ進むかで悩んでいました。ドルフィントレーナーになるのは、狭き門だと知っていたので、私なんかがなれるわけがないと諦め、確実に就職できる介護福祉士になる方がよいのではと考え、福祉の道へと進みました。
福祉関係の仕事に就き2年ほど経った時、身近な人たちが自分の夢を叶えていく姿を見ることが増えてきました。その度に 「私はこのままでいいの?」 と自問自答する日々が・・・。失敗するのを恐れる性格で、自分自身に自信を持つこともできず、安心な道ばかりを歩んでいましたが、身近な人たちの頑張っている姿を見て、私も挑戦しよう! と決意。福祉の仕事を辞めて、22歳でドルフィントレーナを育成する名古屋の専門学校へ入学しました。就職試験に何度も落ちましたが、諦めず挑戦し続けた結果、24歳で念願のドルフィントレーナーになる夢を実現しました。
結婚、退職、出産私にできることって?
水族館でイルカを2年担当し、その後セイウチやアザラシなども担当しました。5年ほど経った時に結婚、退職し、主人の実家・田原市へ嫁いできました。長女がまだ生まれたばかりでしたが、卒業したドルフィントレーナーの専門学校で非常勤講師をしないかと声をかけていただき 「夢を実現する子を応援したい、ドルフィントレーナーの素晴らしさを若い世代にも伝えたい」 と非常勤講師に。子育て真っ只中でしたが、主人の協力もあって田原から名古屋の専門学校まで通い、講師を勤めました。講師をして7年ほど経った時、主人が仕事の都合で東京へ単身赴任に。講師を続けることが困難となり、退職しました。
仕事を辞めて子育てをしていると、徐々に物足りなさを感じるようになりました。子どもたちはとても可愛いし、子育ても楽しく、面白い。しかし何かが足りないと思い始めて、それがストレスにも。今の状況で自分にしかできないこと、やれることって何だろうと考えた時に、海の生き物が大好き、伝えることが大好きだと改めて感じるようになりました。
そして 「身近な海で大好きな生き物に携わる仕事がしたい」 と思い、今住んでいる渥美半島の三河湾の海を見つめ直すと、国際自然保護連合の絶滅危惧種に指定されている “スナメリ”(小型イルカ) が生息していること、日本一の貝の町と言われるほど多種類の貝が採れることなどを知りました。大好きな海の生き物たちの魅力を伝えたい、海の素晴らしさや現状を伝えたいと考え、自然体験プログラムを立ち上げました。
海の魅力伝道師として命の大切さを伝える
自然体験プログラムでは、 「ビーチコーミング」(海の漂流物を探したり集めたりすること) や、 「海の生物教室」 を実施しています。その中でも特に重点を置いているのは、命の大切さを伝えることです。先日、海の生き物教室で保育園の子ども達が 「海の生き物を持って帰りたい」 と言いました。私は 「その生き物はどうやって暮らしているの? 本当に持って帰りたいなら、きちんと生き物のことを調べてからにしようね」 と言いました。海にはたくさん生き物がいて、生き物にはそれぞれ大切な命があります。その命を大切にするために私たちができることを、子どもたちにもわかりやすく伝えています。
また、命の大切さとともに、海の環境問題についても伝えています。生き物たちが住んでいる海には、たくさんのゴミが落ちていて、海が汚れることで生き物が住みづらくなる現状があることを、少しでも理解してもらえたらと思っています。
子育てを理由に夢を諦めちゃダメ!
ドルフィントレーナーや非常勤講師を経験したことで、伝えることの楽しさ、面白さを学びました。子育てにおいても “伝える” ことはとても大事だと実感しています。大人は先が見えるので、つい子どもにこうした方がうまくいくと答えを先に教えたり、失敗をしない方法を言ったりします。しかし、伝え方一つで、子どもが自分で考える力、失敗を学びに変える力、新しい発想を生み出す力も生まれるのです。子どものやり方をじっくり見て、寄り添いながら伝えていきたいと思っています。
現在、主人が単身赴任中なので、ワンオペ育児中。周りから 「一人で育児しながら自分の好きなことをできるってすごいね」 と言われますが、最初からうまくいくことばかりではありません。ドルフィントレーナーになる前は、挑戦することに恐怖を感じて行動を起こせずにいましたが、失敗しても支えてくれる人がいるから挑戦できる。トライしてうまくいった時は大きな自信につながります。子どもがいるからと言って、自分のやりたいことを諦めてしまうのはもったいない! 人生ママの顔だけではなく、いろいろな自分がいていいですよね。失敗しても遠回りしても、止まってもいいじゃない!これからもイキイキと輝きながら、自分にできることを挑戦し続けていきたいです。