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【2025年 ママゴン11月号掲載】

3児の子育てをしながら 受刑者の社会復帰を支援する

豊橋刑務支所の女性刑務官

東三河在住 小野 彩花(仮名)さん 36歳

女性受刑者を専門に収容する名古屋刑務所豊橋刑務支所。 豊橋刑務支所の庶務課に勤める、高校生・中学生・保育園児の3児のママ。

自分にとってのチャンス

 私は「刑務官になろう」と思って、この仕事を選んだわけではありません。もともとはプログラマーとして働いていましたが、出産を機に退職。第一子、第二子を出産後、次第に「何か仕事をしなければ」という思いが強まり、生活と子育ての両立を模索するなかで、公務員という選択肢を友人から教えてもらいました。それまで公務員という職業について深く考えたこともなく、制度や仕事内容もほとんど知らない状態。まさにゼロからのスタートでした。公務員試験の受験を決意した当時、豊橋刑務支所では平成29年に女性受刑者を主に収容するという転機を迎えており、女性刑務官の募集が行われていました。その情報を知ったとき、「これは自分にとってのチャンスかもしれない」と思ったのです。そこからは、本当に必死でした。小学生の長男と保育園児の次男の送り迎え、宿題のサポート。朝、子どもたちを送り出し、家事を済ませてから9時〜16時まで勉強。夜は子どもを寝かしつけた後に再び机に向かい、毎日10時間以上を勉強に費やしました。平日は派遣の仕事をしていましたが、試験が近づくと週3勤務に減らし、隙間時間をすべて勉強にあてました。受験までの2年間、とにかくがむしゃらに走り続けました。刑務官の受験面接の際に「夜勤があります」と言われ、そこで初めて刑務官の仕事の中身を深く知りました。しかしこのチャンスを逃すわけにはいかないと、「やれます」と答えました。そして無事に合格。刑務官として勤めることになりました。最初は、笠松刑務所(岐阜県)で半年間の研修を受けることになりました。単身赴任で官舎に住み、子どもたちは家族に預けてのスタートでした。

仕事に家事に忙しい日々

 最初の配属先は「夜勤」。夜勤とは、日中は受刑者の運動・入浴の立会、夜は巡回業務を担います。勤務時間は朝8時半から翌朝8時半までの24時間。仮眠はあるものの、緊張感の抜けない仕事です。業務の中でとくに印象に残っているのは、処遇が難しい受刑者との関わりを、ベテラン職員と共に行ったことです。1人では決して対応できなかったと思います。その時に組織で働くことの大切さを体感しました。半年の研修が終わり、豊橋刑務支所に戻り引き続き夜勤を担当しました。仕事、家事、育児に追われ、時には武道訓練にも力を入れ、家庭では母、職場では刑務官として全力の日々で、毎日が目まぐるしく過ぎていきました。その後、庶務課に配属。庶務課では、公文書の管理や矯正局の独自のネットワークシステムの運用を担当しています。これらの情報は高い機密性を持つため、慎重に取り扱わなければならず責任のある仕事です。勤務時間は朝8時半から17時まで。第三子を出産し、産休・育休を経て、今は16時半までの時短で勤務。妊娠や育児に応じて配属や勤務体系を柔軟に調整してくれるなど制度がしっかりと整備されており、職場の理解も大きな支えとなっています。

常にスキルアップ

 庶務課として広報や採用活動にも力を入れています。職員有志が集まり、地域と刑務所のつながりを意識した情報発信を行っています。今年、豊橋市のシンボル吉田城の土塁をモチーフにした豊橋刑務支所のオリジナルキャラクター「ドルッキー」を作りました。伝統の手筒花火や豊橋の農作物などを取り入れ、親しみやすさを感じてもらえるように立案。エフエム豊橋やSNSを通じて、刑務所の仕事を”見える化“する取り組みを進めています。こうした広報活動の根底にあるのは「矯正行政のミッション・ビジョン・バリュー」です。矯正行政が社会的な役割を果たし続けるためにつくられました。私たち刑務官の使命は、「更生を信じる力で、もっと安全で豊かな社会をつくる」こと。再犯防止を目標に向けて、職員一人ひとりが誇りを持ち地域と連携しながら日々業務にあたっています。そして、今年の6月から「拘禁刑」がスタートしました。従来の懲役刑では刑務作業が義務付けられていましたが、拘禁刑では受刑者それぞれの年齢や心身の状態に応じて個々の背景に寄り添った処遇が必要になります。私たち刑務官も、これまで以上に”聴く力“や”寄り添う力“が求められる時代になってきました。以前はろう絡のおそれから「受刑者と私語を交わさない」と言われていた風土も、今は変化しています。先日心理カウンセリングの研修を受講し、私自身もスキルアップに努めています。

家族がチームとなり 支え合う

 子育てでは、高校生・中学生・保育園児の3人の子どもたちと向き合いながら、家族全員で助け合って日々を過ごしています。第三子の夜泣きが酷く、上の子たちの登校時間に起きられなかったときは自分たちで朝食を作り片付けし登校していたことがあり、とても嬉しかったです。常々息子たちには「自立する力」を大事にしてほしいと願い、あえて任せるようにしています。夫も送り迎えや食事の支度をしてくれており、まさに”家族チーム“で支え合って乗り越えています。私は高卒で、これまでのキャリアにも自信がありませんでした。それでも「何かやらなきゃ」と思い一歩踏み出しました。キャリアカウンセラーや友人、親からは「その学歴と経歴ではキャリアは難しいんじゃない?」と言われとても悔しかったことがあります。それでも、諦めたくなくて、やってみようと思ったのです。もしあなたが「私なんて…」と思っているなら、まずは一歩、踏み出してみてください。ダメだったらまた考えればいい。何もしなければ何も変わりません。小さな一歩が、大きな未来につながっていくと私は信じています。

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